樹木葬墓地の100年後
目次
墓地から移り変わる森の姿
樹木葬墓地区画は、かつての薪炭林を基盤とした混交林と霊園造成時に植林された杉林でした。この地をやがて本来的な植生の見られる森へと還していくために、植生遷移に基づいたプログラムを検討し、そのきっかけとなる環境整備を行ったのがこの樹木葬墓地です。
今あるものを活かし、作り替えるのではなく見守り育てていくことを基本的な考え方としています。それが墓地としての管理につながり、森を再生する手助けともなります。また、ゆっくりと森を見守ることが故人への弔いとなるのではと考えます。
樹木葬エリアは次の3つのエリアに分けて整備します。3つのエリアはそれぞれ異なった過程を経て森に還っていきます。
- 墓地から移り変わる森の姿
混交林保存エリア-既存の森を守る
霊園造成時に残されたクヌギ・コナラ林を守りながら、その足元で苗木を植えて、緩やかな樹林の更新を促していきます。
杉林皆伐エリア-新たな森を創る
霊園造成時に植林されたスギを皆伐し、地域の森の姿を創る第一歩として新たに樹木の苗木を植えます。
杉林間伐エリア-共生の森を育む
霊園造成時に植林されたスギを間伐して林床を明るくし、霊園内に自生する郷土種を誘引しながら森を育んでいきます。
木だち・木もれび区画(混交林保存エリア)
霊園が造成されるより前、かつて里山の薪炭林として利用されていた頃の面影を残すエリアです。大きく生長したクヌギやコナラのほか、サクラやモミジなどで構成された美しい落葉樹林ですが、よく見ると枯損木が目立ちました。そこで、将来的に墓標になる苗木を植えて、樹林の更新準備をしました。
100年後には生長した苗木の子孫木も芽生え、また少し薄暗くなった森の林床から常緑樹の生長も垣間見られると考えます。
木だち・木もれび区画(杉林皆伐エリア)
スギは生長が早く木材として優れるため、山々がその植林で覆われました。しかし近年、様々な理由で管理放棄された山林が増加しています。手入れを怠ると雨により表土が侵食を受けやすくなり、それが土砂災害の一因ともなっています。
このエリアは霊園造成時に早期の緑化を目的としてスギが植林されたと考えられますが、将来この地域の植生で構成された森の姿としていくために、スギを皆伐して樹種転換を促すこととしました。
開園からしばらくは樹木が小さいかもしれませんが、日当たりの良い斜面地なので、やがて林床と共に緑に覆われていきます。同時にその落ち葉や枯れ草が土へと還り、豊かになった土から新たな植物が育つ。そうして季節を重ねながら、自然の植生が徐々に増えていくものと考えます。
天の川区画(杉林間伐エリア)
このエリアも杉林による早期緑化がされていましたが、林床では4〜5mほどに育ったヤブツバキやシロダモ、イロハモミジなどの実生木が確認できました。また、隣接する合葬式墓地に対しての背景ともなっていることから、この杉林は皆伐せず、列状間伐という方法で実生木を残しながらスギを間引きました。
天の川区画では草地に埋葬をしていくため、苗木は川沿いなど最小限にとどめました。間伐により日当たりがよくなったことで、整備前に確認したような実生木が自生することを期待します。ただし埋葬前は定期的に下草刈りを行い、植物の生長を抑制します。埋葬後の区画は草刈りの頻度を減らしながら、実生木の発芽が確認されればそれを保護して育てていき、やがて埋葬区画も樹木で覆われていきます。
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